コーティングとは? 硬質薄膜の役割
⬛ コーティングとは、母材の金属の上に厚さ数ミクロン(μm)の薄い被膜を、「めっき」のように被覆することを言います。特に真空中での蒸着による薄い被膜は、薄膜(ハクマク)と呼ばれます。このようにコーティングにはいろいろな呼ばれ方があります。
以下にいくつかを紹介しましょう。
PVD(ピーブイディー):Physical Vapor Deposition = 物理蒸着
イオンプレーティング :Ion Plating = イオンを利用した真空蒸着
ハードコーティング : Hard Coating = 硬質薄膜 通常はビッカース硬さ1000HV 以上の硬い被膜です。
ドライコーティング :Dry Coating = 湿式めっきのWet に対して乾式めっきのDry
トライボコーティング :Tribo-coating = トライボロジー 特性を向上させるコーティング
⬛ その他、最近よく耳にするコーティングとしてDLC コーティングがあります。これはDiamond-Like Carbon の頭文字を取ったもので、ダイヤモンド状炭素膜を意味します。つまり炭素系材料の薄膜につけられた名前です。
⬛ 当たり前のことですが、コーティングには母材が不可欠です。母材とコーティングが一体となって、ひとつの材料として仕事をします。表に出るのはコーティングだけで母材は下に隠れているから何でも良いと考えがちですが、母材とコーティングが「はなればなれ」つまりはがれてしまっては元も子もありません。母材からはがれないように、強固に密着しているコーティングを作らなければなりません。これは、ハードコーティングのように金型や部品の耐久性を上げる場合には特に大事なことです。コーティングは、接触する相手材料に対してよい仕事をしなければならないと同時に、母材とも良い関係を保たなければなりません。そこがコーティング材料選定および薄膜設計のむずかしいところでもあり、面白いところでもあります。
コーティングにはどんな材料が使われるの?(その1) 硬質薄膜に使われる材料
⬛ ここでは金型・摺動部品や切削工具に使われるハードコーティング=硬質薄膜に絞ってご説明します。硬質薄膜ですから当然ほかの材料より硬いことが特徴です。硬いと言えばまず頭に浮かぶのが「ダイヤモンド」ですね?次に来るのが「セラミック」でしょうか。硬質薄膜に使われる材料も基本はこうした材料です。
⬛ まずセラミックですが、セラミックには酸化物・窒化物・炭化物などがあります。バルク材料(薄膜材料に対し一体の均一な材料という意味)では酸化アルミニウム(アルミナ)等の酸化物セラミックがもっとも多く使用されますが、薄膜では窒化チタン(TiN)・窒化クロム(CrN) 等の窒化物セラミックがよく利用されます。
⬛ 同じ成分のセラミックでも、セラミック粉末を焼き固めて(焼結)作ったバルク材料と、真空中でプラズマを利用して作る薄膜材料では結晶構造も違いますし機械的特性も違います。また薄膜では作る時の成膜条件(たとえば製品の温度や窒素ガスの圧力、イオンのエネルギーなど)によって特性はいろいろ変化します。CrN(窒化クロム)と表記してある薄膜でも作り方によって随分特性(性能)が違うことがあることに注意してください。
⬛ 最近は、硬質薄膜の材料設計も進歩して、昔はTiN のような単純な単層膜だけだったのが、TiAlSiCNO などいろいろな元素を添加したり、数10 層も多層膜にしたり、新しい薄膜がどんどん出現しています。また成分を伏せてブランドネームだけの薄膜も多くなりました。ユーザーとしては性能が良いことは勿論ありがたいことですが、何故性能が良いのかも知りたいところですね。
さて「ダイヤモンド」ですが、この分野は最近とても注目され応用分野も広がっている材料です。種類が多くわかりにくいので次の項でくわしく説明します。
コーティングにはどんな材料が使われるの?(その2) 炭素系材料
⬛ 硬質薄膜の中で最近もっとも注目されているのが前述したDLC コーティング(ダイヤモンドライクカーボン=ダイヤモンド状炭素膜)です。ダイヤモンドの薄膜を作りたい!という夢は1960 年代以前から各国の研究者がおこなっていましたが、その過程でできたのがDLC コーティングでした。そして1980 年に日本で気相合成(CVD) に成功してダイヤモンド薄膜が実現しました。しかし、成膜温度が高い(800℃~)、表面が結晶でゴツゴツしている、大面積にコートできないなどの制約から実用化はなかなか進みませんでした。
⬛ 一方、できそこないのダイヤモンドとも言えるDLC は、ダイヤモンド薄膜ほどの硬さはありませんが、低温(200℃以下)処理ができる、表面が平滑、摩擦係数が低いといった特徴を生かして、1980 年代から金型や摺動部品を中心に少しずつ応用分野を拡げてきました。
■ そして摩擦によるエネルギー損失を減らす、つまり燃費向上のためのコーティングとして、2004 年頃より一般乗用車のエンジンバルブリフターに実用されています。DLC は炭素系材料ですから、成分としてC(炭素)が含まれるのは当然ですが、通常、炭化水素ガスを原料として成膜することが多いため被膜中にH(水素)が含まれます。水素含有量はプロセスや成膜条件によって変化し、水素含有量が多いと電気絶縁性が高くなるなど特性に大きく影響します。
⬛ 最近、真空アークやフィルタードアーク(Filtered Arc)と呼ばれるプロセスにより、炭化水素ガスではなく固体炭素を原料として使用し、水素含有量の少ない「水素フリーDLC」(水素を含有しないDLC という意味) という新しいジャンルのDLC コーティングが出てきました。このDLC は、成膜条件によってはダイヤモンドに近い硬さになるため、切削工具など硬さが重要である分野で使われ始めています。こうした硬いDLC は、学術的にta-C(Tetrahedral Amorphous Carbon)とも呼ばれます。このようにDLC には硬いもの(~ 50GPa)から柔らかいもの(~ 10GPa)までいろいろな種類があります。
コーティングはどうやって作るの?(その1) 硬質薄膜の成膜プロセス
⬛ 硬質薄膜は、主にPVD(ピーブイディー)コーティングと呼ばれるプロセスで成膜されます。これは「物理蒸着」という意味ですが、高真空中で成膜材料を蒸気(気体)に変えて、基板(コーティングされる製品)を蒸気にさらして表面に薄膜を成長させるプロセスです。
⬛ 硬質薄膜では窒化物が多く利用されるので、例えばTiN( 窒化チタン)では真空炉(チャンバーとも呼ばれます)の中に窒素を導入してTi(チタン)と良く反応させる必要があります。このため、チタンや窒素をプラズマ中でイオン化するプロセスが使用されます。これがイオンプレーティング(IP=アイピー)と呼ばれるゆえんです。 TiN(窒化チタン)は鮮やかな光沢のある黄金色ですが、イオン化が十分されていないと光沢のない濁った金色にしかなりません。
⬛ 窒化物硬質薄膜の成膜には、固体ターゲットを用いるスパッタリングや真空アーク法(AIP=Arc Ion Plating とも呼ばれます)と、るつぼで金属原料を溶融蒸発させるHCD(ホローカソード放電=Hollow Cathode Discharge)法がありますが、最近は多元合金を簡単に成膜できる固体ターゲットを用いる方法が主流となっています。
⬛ DLC の場合、水素を含有するDLC では、炭化水素ガス(アセチレン= C2H2 等)を原料とするプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition= 化学蒸着)法が、水素をほとんど含有しない水素フリーDLC(ta-C) では真空アークが主に用いられます。
⬛ 真空アーク法では、窒化物でもDLC でもドロップレット(droplet) と呼ばれる溶融金属液滴が被膜中に混ざり、表面を粗くして被膜性能を劣化させます。これを低減する新しいプロセスは、フィルタード・アーク(Filtered Arc)と呼ばれています。
コーティングはどうやって作るの?(その2) 硬質薄膜の成膜工程
⬛ PVD やプラズマCVD は高真空中でのプロセスですので、製品の表面に少しでも汚れが残っていると、コーティング被膜が密着せず剥がれてしまったり、汚れ成分が蒸発して不純物として被膜に取り込まれて特性が劣化してしまいます。油汚れは真空チャンバーに入れる前の超音波洗浄で落とすことができますが、錆や研削液のこびりつきは磨かないと落ちない場合もあります。金型や摺動部品に常に密着良くコーティングするには、コート前の母材表面および加工履歴をきちんと管理する必要があります。コーティングの出来具合は、チャンバーに入れる前の作業で決まると言っても過言ではありません。
⬛ チャンバーに入れてからは、コーティング開始前に予備加熱とイオンエッチングがおこなわれます。加熱によって表面に吸着している分子を取り除き、イオンエッチングで酸化層を除去し被膜が強固に結合するように活性化をおこないます。
